2012年から2017年までアルゼンチン北部に位置し、パラグアイ国との国境となるフォルモサ州にてJICA草の根協力事業として「生物資源の持続可能な利用による地域住民の生計向上支援」を目的としたプロジェクト、『プロジェクト・ラ・エストレージャ』が実施されています。
現在、アルゼンチン全体としては経済発展が進む中進国という位置づけですが、中進国では経済第一主義、生産第一主義で国家運営が行われることが多く、その結果、地域格差や経済格差が大きな問題となっており、事実フォルモサ州もアルゼンチン国内で最も貧しい州の1つとして数えられています。
また、アルゼンチンの森林は国土の11%ほどであり、フォルモサ州を中心としたグラン・チャコ生態系と南西部のアンデス山地沿いに分布するのみとなっています。
アンデス山地の森林の多くは、国立公園などとして保全されていますが、グラン・チャコ地方の森林域をカバーする保護区は少なく、その保全と持続可能な利用も求められています。この様な状況を踏まえ、フォルモサ州内に残るグラン・チャコ生態系を基盤とした豊かな自然環境を持続可能に利用しながら地域住民の生計向上を行う目的でプロジェクトが実施されることとなりました。
プロジェクトの主な活動地域はフォルモサ州ラス・ロミータス市とその周辺に広がるエストレージャ湿地であり、日本の一般財団法人自然環境研究センター(JWRC)とアルゼンチン側のカウンターパート機関であるアルゼンチン生物多様性財団(FBA)が主体となり、地域住民と連携しながら、エストレージャ湿地やフォルモサ州内の自然資源の持続的利用と保全に向けて活動しています。
事業名:
生物資源の持続可能な利用による地域住民の生計向上支援(プロジェクト・ラ・エストレージャ)
プロジェクト目標:
持続可能な自然資源利用が地域住民の生計向上につながる仕組みが整うことにより、ラス・ロミータス市及びその周辺地域の自然環境保全の基盤が整えられる
プロジェクト関係機関名:
一般財団法人 自然環境研究センター(JWRC)
独立行政法人 国際協力機構(JICA)
フォルモサ州政府環境及び生産省
アルゼンチン生物多様性財団(FBA)
ラス・ロミータス市役所
プロジェクト・ラ・エストレージャの主な5つの活動
≪パロ・サント等の持続的利用≫
フォルモサ州にはグラン・チャコ生態系を代表するハマビシ科の高木、パロ・サント(Bulnesia sarmientoi)が生育しています。パロ・サントからは緑色をした非常に堅く高価な材がとれ、これまで中国を中心に床材や家具材として輸出されてきました。
しかし、本来の生育分布域がグラン・チャコ生態系に限られていた事に加えて、近年その有用性と短期的な収入向上のため輸出量が増加し、過剰利用となったため、2010年にはワシントン条約附属書Ⅱ類に含められました。
パロ・サントは製材時に材として使用されるのは20%であり、残りの80%は廃材として焼却処分されていますが、材自体は高価なうえに化粧品や石鹸などに使用される芳香性のあるオイルも含まれているため、プロジェクトではこの廃材を利用して、オイル抽出実験を行い、日本のアロマオイル関係団体と連携しながら今後の有効活用に向けて活動しています。また、プロジェクト地域でのパロ・サント資源調査を実施し、フォルモサ州政府と共に今後のパロ・サント資源の維持管理にも取り組んでいます。
≪イエローアナコンダの持続的利用≫
イエローアナコンダは南米に生息する4種のボア科アナコンダの1種で、アルゼンチンに生息するアナコンダの中では最大種となり、大きい個体では4mに達するものもいます。
その皮革は強靭で名前のとおり黄色味をおびており、現在はバッグ、ベルト、靴などの装飾用としてヨーロッパの高級メーカーを中心に輸出されています。また、現在はパロ・サント同様にワシントン条約付属書Ⅱ類にも登録されています。
フォルモサ州は世界で唯一イエローアナコンダの持続的利用が行われている場所であり、アルゼンチン生物多様性財団(FBA)は2002年から本格的な生態調査をもとにイエローアナコンダの種としての保護とその皮革の生物資源としての持続的利用をフォルモサ州政府、地域住民と連携して行っています。プロジェクトでは、生態調査を通して種のデータ集積を実施する事に加えて、現在ヨーロッパを中心に輸出されている皮革の日本へのマーケット分散を進めています。
≪エコツーリズムの推進≫
プロジェクトでは、自然資源の間接的利用による地域に収入をもたらす方法として、エコツーリズムの導入を行っています。
エストレージャ湿地はフォルモサ州を代表する自然環境ですが、エコツーリズム対象地域としては、ほとんど未開発であることに加えて、湿地の季節的な水位変化を利用した多様なプログラムが可能なため、多くの潜在的可能性を秘めています。加えて、州内にはグラン・チャコ生態系を代表する自然環境が多く残されており、そこには美しい野生動植物が暮らし、湿地周辺にある先住民の集落ではフォルモサ州独特の伝統工芸品と出会う事ができます。
プロジェクト活動では、州内の観光資源の発掘や地域住民と共にフォルモサ州の自然環境を活かしたエコツーリズムプログラムの開発に加えて、プロジェクト期間中には日本からミシオネス州を訪れているスタディーツアーをプロジェクト地域でも受け入れることで、エコツーリズムに関する様々なデータや日本人ならではの意見収集を行っています。この様な活動を通じてフォルモサ州の自然環境を活かしたエコツーリズムの整備を進めています。
≪ラス・ロミータス市及びその周辺の環境保全計画の作成≫
ラス・ロミータス市やその周辺にはエストレージャ湿地をはじめグラン・チャコ生態系を代表する低木林や草原、川などの自然環境が豊富に残っており、これらの自然資源はラス・ロミータス市など周辺住民の生活基盤となっています。例えばエストレージャ湿地は多くの魚類や鳥類をはじめとした野生動物の生息地となっている事に加えて、その水が住民の生活用水にも利用されています。
プロジェクトでは地域住民やプロジェクト関係機関と共に自然資源の持続的利用に関する活動(イエローアナコンダ、パロ・サント、エコツーリズム、環境教育)を通じて、動植物やエコツーリズム実施に関する多くのデータや経験を蓄積してきました。
今後は各活動の継続や得られたデータ・資料を整理し、フォルモサ州政府や地域住民へ公表することで、フォルモサ州にとってかけがえのない自然環境を持続的に利用し保全していくために役立てていきます。
≪環境教育の実践≫
プロジェクト活動地域では、エストレージャ湿地やその周辺に森が広がり、そこには多くの野生動植物が暮らしています。しかし、地域住民にとって身近にある豊かな自然は、時として短期間で簡単に収入を得る目的で破壊され、その自然資源を使い切ってしまう可能性も含んであります。
身近な生物資源を持続的に利用することで地域の人々の生計向上を図り、それが生物資源を保護することにも繋がり、更なる生計向上となる様な好適サイクルを作るため、いろいろな機会を通じて、子供からお年寄りまでに、その意義を伝えていく必要があります。
そのためプロジェクトでは地域住民に各活動(パロ・サントやイエローアナコンダ、エコツーリズム等)に参加してもらい、活動を通じて生物資源保護、環境の重要性を理解してもらっています。更に植物や昆虫、湿地の図鑑を作成し、地域の学校と一緒に環境教育活動を行う際に使用し、身近な自然環境に目を向けてもらえる様に活動しています。
Proyecto La Estrella
プロジェクト・ラ・エストレージャ
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